2011年03月21日

モデル/ライバル法

今回の記事は(も?)、ちょっと無謀なネタかもしれません。
私は単なる犬好きの一人に過ぎず、偉そうなことは書いていても、自分の犬のトレーニングも充分にできてはいないですし、ましてや心理学や動物行動学などの分野を系統立てて学んだこともないド素人です。
それなのに、Temple Grandin氏の"動物感覚"やら、Irene Pepperberg氏の"アレックスと私"などに感化され、貧弱な語学力を顧みずに英語の文献等を頼りに犬の社会的学習理論の話に触れようというのですから...
専門家の方から見れば、噴飯ものの解釈も多くあるかもしれません。あまりにおかしな部分がありましたら、コメントなりメールなりでお知らせいただければ幸いです。

110102r.jpg

モデル/ライバル法は、もともとはドイツのDietmar Todt氏が、ヨウムに単語を教えるのに、オペラント条件づけに代わる方法として開発されたものだそうです。仕組みとしては、教えたい生徒(ヨウム)の他に人間が二人必要で、一人は教師役を、もう一人が生徒の手本(model)でもあり競争相手(rival)でもある役を演じます。ペパーバーグ氏はトット氏の方法を改良して、トレーニングの間に教師役と手本/競争相手役を入れ替えるという手順を加えました。

この方法は、Albert Bandura氏のモデリング(観察学習)理論の延長線上にあるもので、社会的学習理論の一つの方法と考えていいようです。それまでの行動主義心理学では、レスポンデント条件づけとオペラント条件づけでしか学習はおこなわれないとされてきたわけですが、バンデューラ氏はそれらは試行錯誤の学習に過ぎないととらえ、社会的行動には観察による代理学習(強化)が有効だと考えたようです。

100801l.jpg

"動物感覚"の福音を書いた後、ヨウムのアレックスの話が気になって、犬に関する"手本/競争相手方式"のことを調べ始めました。"model/rival method"の訳であることはすぐにわかりましたので、そのキーワードで犬を対象とした研究がないかと検索をしてみたのです。

すぐに見つかったのは、2003年に Applied Animal Behaviour Science誌に発表された Sue McKinley, Robert J. Youngによる The efficacy of the model-rival method when compared with operant conditioning for training domestic dogs to perform a retrieval-selection taskという論文でした。
内容はタイトルのとおりなのですが、ペパーバーグ氏の Alexに関する研究に触発されて、一般的になっているオペラント条件づけと比較してみようというもので、犬を対象にモデル/ライバル法を試してみた最初の研究だと思われます。赤色のおもちゃ"SOCKS"と黄色いおもちゃ"CROSS"を持って来る動作を二つのトレーニング方法によって教えて、どちらが効果的か調べられました。
結論は、(統計的に処理した結果)モデル/ライバル法は、オペラント条件づけ法と同程度の訓練効果をもたらすというものです。
さらにいうと、モデル/ライバル法では(オペラント条件づけのフードではなく)持って来させる物自体を報酬とするので、その物の名前を理解しているようだとの考察がなされているところが興味深いと思います。

110211o.jpg

犬に対してモデル/ライバル法を適用した他の論文がないかと探したところ、Nina Rachel Cracknellらによる Can stimulus enhancement explain the apparent success of model-rival technique in the domestic dog (Canis familiaris)? という、同じくApplied Animal Behaviour Science誌に 2008年に発表されたものが見つかりました。ただ、こちらは全文を手に入れようとすると結構な金額を払わなければいけないので Abstractしか読んでいません。ふらふら
結論としては、McKinley & Youngのおこなった実験に関しては、モデル/ライバル法の基盤となる複雑な認知プロセスを持ち出すまでもなく、刺激強調(stimulus enhancement)の結果として学習させる方が効率が良いということのようです。刺激強調という概念は、真の(認知的)模倣ではなく疑似模倣(pseudo imitation)の一形態とされるようですが、これがすなわち、モデル/ライバル法を否定するという性格のものかどうかは、現時点では私にはわかっていません。

私がネットを使って検索した限りでは、犬を対象にしたモデル/ライバル法のオリジナルな研究は上記の二つくらいしか見つかりませんでした。これらを引用して考察している文献や、モデル/ライバル法に特化せず、犬の模倣学習や社会的学習について考察しているものも複数見つけてあるのですが、その分野の専門知識が乏しいため、まだほとんど読めていない and/or 理解できていないというのが実状です。
これについては、もう少し私の理解が進めば、また記事にできればと考えています。

と、この辺りまでは、昨年秋の時点で調べていた内容でした。
アレックスと私の記事を書いた後で、とりあえず一旦はモデル/ライバル法について記事にしておこうと考えて、念のためにもう一度ネットを調べていると、新しい情報に巡り会いました。

ForTheLoveOfADog.jpg

それは、Patricia McConnell氏のこのブログ記事です。氏のことは、Temple Grandin氏の Making Animals Happyを読んだ際に多数引用されていたことで知りました(写真の"For the Love of a Dog"は購入したものの、完全に積ん読になっちゃってますがもうやだ〜(悲しい顔))。動物の行動学者でもあり、アメリカでは(極力 正の強化のみを使うpositive trainerとして)著名な犬のトレーナーです。ブログのタイトルになっている The Other End of the Leashという書籍を含め、多数の著作もあるようですが、一冊も邦訳されていないのが残念です。

彼女は昨年、愛犬のWillieに(クリッカーとトリーツを使った)普通のオペラント条件づけで物の名前を教えようとされたのですが、芳しくない結果に終わったそうです。今年になって(日本でも紹介された)1000以上の単語を理解するChaserのニュース(ここここ等を参照: この研究も興味深いですね)に刺激されて、もう一度 Willieに物の名前を教えてみようとされます。その中でモデル/ライバル法を使ってみることを思いつき、一定の成果を上げられたようです。シンプルな内容ですが、同法でのトレーニングをビデオでまで紹介してくださっているのは興味深いですね。

110201f.jpg

先日私は 犬の愛に嘘はないで、ジーン・ドナルドソン氏が ザ・カルチャークラッシュの中で "オペラント条件付けと古典的条件付けでしか学習することができない"と書いておられることに対する抵抗感を表明しました。が、考えてみると、かの本が出版されたのは1996年ですから、犬(を含む動物一般?)の社会的学習についての一般常識としてはそういったスタンスになるのも仕方なかったのかもしれません。同じ年に出版された Pamela Reid氏の Excel-Erated Learningの中でも、"犬には模倣学習はできない"といった結論が書かれているそうですね(残念ながら原本を読んだわけではありませんし、今更入手する気もないのですが)。

いろんな論文を拾い読みした感触では、この10年あまりで、犬の社会的学習については、同種内(犬どおし)のみならず、異種である人間の行動をも観察して学習しえる(モデル/ライバル法はこの一形態ですね)という考え方が一般的になりつつあるように思います。
もちろん、これはオペラント条件づけによる行動随伴性学習を否定するものではなく、"犬がどのように認知するのか"という部分にこそ強い影響を及ぼすものだと考えます。

私自身は従来からあるトレーニング方法もまともに身に付いておらず、ファルコを混乱させてばかりいる状態ですから、すぐに社会的学習に挑戦しようなどという大それたことは考えていません。しかし、複数飼いができるようになった暁には、どんなふうに"模倣"がおこなわれるのかに注目してみたいなと思っているところです。
posted by Tosh at 21:49| Comment(2) | 雑記帳