副題?がシャレてますね。恋人などに使われる"made for each other"という慣用句を使って、"(文字通り)互いのために生まれてきたのか?"という、この話題の核心部分を表しています。
今回の記事は、こんなシンポジウムが開かれている、つまり"犬と人とは互いに影響しあって共に進化してきたのか?"ということが科学の世界でホットな話題として議論されているということを書き留めておくのが主旨です。
もちろん、"犬の起源"や"犬の進化"という点については従来から研究されてきたわけですが、"共進化(人間も犬の影響を受けて進化した)"というのをタイトルに掲げたシンポジウムが開かれたということはエポックメーキングなことではないでしょうか!
この二日間に渡るシンポジウムの講演の様子はビデオで公開されています(上の画像をクリックするとそのページを開きます)。
(時間帯によっては)ストリーム配信が追いつかなかったり、音声の収録状況が良くなかったりするので、私自身もまだ少ししか視聴していないんですけどね。

UCLAでこんなイベントが開かれたのは、先の記事でも名前を上げさせていただいた Robert Wayne氏がこの大学におられるからだと思われます。私がちょこっと調べた限り、1990年台以降、犬の進化について最もホットなトピックの中心におられるのが Wayne氏だと感じています。
彼の1993年の論文は、それまで議論されていた犬の起源について終止符を打つ形になりました。犬に近い動物達の mtDNAの分析から、犬はタイリクオオカミ(Canis lupus)に非常に近いことが示され、従来のコヨーテやジャッカル説はほぼ否定されて、Canis familiarisと独立種扱いされていた学名も Canis lupus familiarisとオオカミの亜種とすることが一般化しました。
その Wayne氏が率いるチームが 1997年に発表した論文("動物感覚"の中でも引用されているもので、本文のPDFはこちら)は大きな波紋を投げ掛けました。犬がオオカミから分岐したのが 13万5千年ほど前であるという部分が各所にインパクトを与えたのです。ちなみに、現在では Wayne氏は13万5千年前という考えを変えておられるようです。この点については今後の記事でも少し触れる予定です。
上記の論文の共著者でもある Peter Savolainen氏らは 2002年の論文で犬の祖先が東アジアの個体群由来であるとし、その説が半ば定説化しつつあったわけですが、最近の研究ではそれが覆されつつあります。
このシンポジウムの講演中でも、Wayne氏は Savolainen氏の研究結果も紹介しつつも、2010年に自身が発表された中東アジアが犬の起源地であるという分析を披露しておられました。オオカミと犬では WBSCR17という(人ではWilliams-Beuren症候群に関係があるとされる)遺伝子に差があるという興味深い内容を含む論文の内容です。

ちなみに、犬の起源については、土着犬の遺伝子分析から Savolainen氏らの(東アジア起源)説に異論を唱えておられた Adam Boyko氏も講演をされています。
講演のタイトルを見る限り、そしていくつかのビデオを流し視聴した感じでは、シンポジウムのテーマのとおりの"犬と人の共進化"について正面から論じたものはあまりないように思います。
ただ、Ádám Miklósi氏の講演はそれを扱っておられます。今後の記事で取り上げるつもりのある論文なども紹介しつつ、"犬と人は共進化したのか?"ということについて議論しておられます。結論としては、人が犬によって(遺伝レベルで)進化させられた証拠は"今のところは"見つかっていない。ただ、経済的、文化的な人の進化に寄与したのだろうというのが彼の考えのようです。
Miklósi氏は dog actuallyの記事等でも紹介されていますし、先の記事で紹介した "Dogs Decoded"のビデオにも登場しておられますね。また、2008年に開催された第一回のCanine Science Forumの中心人物の一人です。ちなみにこの会議で Robert Wayne氏は招待講演をおこなっておられます。
そのMiklósi氏がもうすぐ日本で講演や(慶応義塾大学の)集中講義をおこなわれるようです。Animal 2011の公開シンポジウムでは "いきもの散歩道"の菊水健史氏の講演もあるようなので、東京まで出かけて行きたくも思ったのですが... 今回は見送ることにしました。

今回紹介した UCLAのシンポジウムのビデオなんかを見ていると、自分自身の英語力の無さが本当に嫌になりますね。さらさらっと聞き取れたら(&英文を読めたら)どれだけ欲しい情報に辿り着けるだろうかと思うと悔しくて...
犬と人の関係について最新の研究(や実践)をされている方々の情報は、ほとんど日本語になっていません。今回の講演者の中でも日本語の書籍が出版されているのは、(ゲストとして?)最初に話をされている Mark Derr氏の "美しい犬、働く犬"一冊だけかと思います。
この本は、行き過ぎた純血種(ショードッグ)の繁殖等に警鐘を鳴らすDerr氏が、いろんなタイプの犬と人との関係を記録し、どういう関係を再構築すべきかという問題提起をされているもので読み応えがあります。# 惜しむらくは Gundog等に関する章が日本語版では割愛されていることでしょうか。

犬が"人の最良の友"なら、我々も"犬の最良の友"であるべきなのでしょうね。