通勤電車や飛行機の中などでなので、知らない英単語も意味をほとんど調べない流し読みですが、科学者が書いた論理的かつ平易な文章なので、大意は取り間違えてないと思うのですが...

で、内容ですが、とても興味深かったです。
犬の章は、David Mech氏(やAdolph Murie氏)のオオカミの生態に関する観察の話から始まります。すなわち、自然状態におけるオオカミは、群れ(Pack)を作ることなく家族で暮らしていて、アルファ牡というのも存在しないそうです。Packが作られるのは、人工的に多数の個体が寄せ集められた場合のみとのこと。そうすると、従来一般的?に言われてきた、"群れで暮らすオオカミの血をひく犬はリーダーを必要としている"という考え方(Pack Leader論)は根本的に間違っているということになります。
犬も寄せ集められた群れにおいては上下(支配)関係の構築が進むようで、Cesar Millan氏のシェルターのような人工的な群れにおいては、人が Pack Leaderとなって群れ全体を纏めるというのは正しいやり方だと認める一方で、一般的な家庭犬(の飼い方)においては、飼い主は Pack Leaderではなく、親のような存在であるべきだというのが Grandin氏の主張です。
もっとも、飼い主が犬を正しく扱ってさえいれば、自分のことを親と考えていようが Pack Leaderと考えていようがどっちでも良いことだと(科学者らしい冷静さで)書いておられます。
オオカミとの関係で面白いと感じたのは、犬は遺伝的にはオオカミと同等だが、ネオテニー(幼態成熟)に相当するという議論です。実は私は学生時代に進化学なんていう分野を専攻していたもので、非常に興味を惹かれるものがありました。
Deborah Goodwin氏らの研究によって、見た目がオオカミに似ている犬種(ハスキー,ゴールデン、シェパード,... 逆に似ていない犬種としては キャバリア,ノーフォークテリア,フレブル,...が順に挙げられています)ほど、オオカミが争いの際に見せる行動(唸る,歯を剥き出す,頭を相手の体に乗せる,体を大きく見せるなどの攻撃的行動と、鼻を舐める,目をそらす,うずくまる,お腹を見せるなどの服従的行動)を示すことが多いことがわかってきたそうです。さらに、Dorit Feddersen-Petersen氏の研究によると、見た目がオオカミに似ている犬種ほど、強制的な群れの中でもうまく対処できるようなのですが、そういった犬種では服従的行動をより多く示すようです。
人間と同じようにオオカミにおいても、幼い頃にはまず攻撃的行動が身に付き、成長するにつれて服従的行動が増えてくると考えると、犬(特に見た目がオオカミからほど遠い犬種)は精神的には、若い(幼い)オオカミの段階に留まっていると Grandin氏は主張しています。
そして、歳をとっても精神的には若いままの犬という動物は、生涯を通して"遊び"が必要なのだという考えが導き出されます。
この他にも、留守番を長くさせる飼い方は社会的動物である犬にとっては酷なので、二頭飼いにするかペットシッターを雇うような工夫をすべきだといった耳の痛い話や、犬の社会化の時期は、13週を超え、更に性成熟が終わってからも最大3歳齢まで続くので、できるだけ大人の犬と付き合わせるべきだといった、ファルコの飼い方に直結したアドバイスなどもいろいろ書かれていて、非常に面白く読み進めることができました。
SEEKING(探索要求?)という感情(emotion)を活性化させるためには、できるだけオフリードで散歩させたいということや、トリック等をトレーニングすることも効果があることなども書かれており、私が考えていたことは間違っていなかったと勇気づけられる点も多かったです。

そして、犬の章は以下の文章で締めくくられています。
Dogs need people, play, and lots of opportunities to explore and learn, and they can't provide these things for themselves.
That's your job.
肝に銘じておきたいですね。
2011/02/10 追記:連続するような記事を続けて書きました。こちらです。