2010年06月12日

Calming Signals

前の記事で紹介した Temple Grandin氏の "Making Animals Happy"。その中で紹介されている犬種による服従的行動の違いに関して、ちょっと考えたことがあるので書き留めておきます。
有名なカーミングシグナルとの関係についてです。

Turid Rugaas氏の著作は、ペラペラの日本語版"カーミング シグナル"しか読んだことはないので、この本が改訂版の 2nd Editionに基づいているかどうか(最近の Rugaas氏の考えかどうか)も実はわかっていません。ですので、あくまでも日本語版の本の記述に沿った議論であることをお断りしておきますね。

本の中でカーミングシグナルは、オオカミから受け継がれた争いを避けるためのボディーランゲージであり、"何かが起きることを防ぐため、人や犬からの脅威を避けるため、不安、恐怖、喧騒、不快なことを静めるために早い段階から使われます"と述べられています。
"背中を地面につけてお腹を出すのは服従の姿勢です。お腹を地面につけて伏せるのはカーミングシグナルです。"といった記述もみられ、以前から研究されていたオオカミの(服従的)行動との違いについて不明瞭な感も否めないのですが、おそらく争いが起きてからの行動ではなく予防的で微妙なしぐさ(人にとって意外に感じられるもの)を纏めたという性格があるのでしょう。
私も"カーミングシグナル"の存在とその解釈について疑うつもりはない(というよりもむしろ活用しようとしているつもりです)のですが、これらのシグナルが全犬種で共通だという点(と多くのシグナルは人も発することができるとする点)については以前から疑問を感じていました。

実は、ファルコは一部の(特に警戒に関する)シグナルに無頓着です。例えば、散歩で出会った犬が視線をそらせても、遊んでもらえる期待感?に勝てずに直線的にその犬に向かって行ってしまうのです。もっとも、敵意がないことは、耳を後ろに引いたり姿勢を低くするなどのシグナルを活用しているようですが、Rugaas氏によれば "礼儀正しい方法ではない"ことになります。
ファルはまだ若く怖い経験をしたことも少ないですが、積極的にいろんなことを経験させるように努力しているつもりです。が、こういった点に関しては、"猫可愛がり"されているのではないかと思われる協調性のない個体よりも"言葉"が不自由なように見受けられ、社会化がうまくできていないのだろうかと密かに悩んできたのでした。

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さて、カーミングシグナルとしては、"鼻を舐める"、"目をそらす"といった行動も紹介されていますが、これらは "Making Animals Happy"の中で紹介されている Deborah Goodwin氏らによる犬種ごとに見られるオオカミの行動の分析に用いられた6つの服従的行動の中に含まれています(おそらく同じものを指していると考えて良いはずです)。そして、調査の結果、例えば キャバリアはどちらの行動も見せなかった(顕著ではなかった?)とのことなのです。
つまり、動物学者である Goodwin氏らの研究は、Rugaas氏の"カーミングシグナルは全犬種で共通"という主張を否定していることになりますね。
余談ですが、我がラブラドール(の多く)も服従的行動は多く見せない種類のようですが、非攻撃的な性格との組み合わせによって問題化することは少ないといった面白い見解も Grandin氏は書いておられました。

全犬種の全ての犬が同じ"カーミングシグナル"を使いこなすという"夢のある"考え方は、やはり少し乱暴な(その部分が変に一人歩きすると不幸ももたらしえる)のではないかと、私は今考えているところです。
ネットを徘徊していると、"たった3つのことをすれば愛犬がお利口になる"とか、"一つの犬の言葉を使って優位性を示すだけで問題が解決した"といったキャッチーな主張も多々見かけます。天の邪鬼な私は、そういった(愛犬の問題行動に悩む)人を引きつける魔法の処方箋には懐疑的なのですが、それに飛び付く人達も多いようですね。

カーミングシグナルの"発見"によって多くの犬達が幸せになったことを私は知っていますし、Turid Rugaas氏の業績はすばらしいものだと心から思っています。が、"わかりやすさ"を協調しすぎることは、氏が本来大事にしてきたのであろう、それぞれの個体をしっかり観察して客観的に理解しようとすることの妨げにならないかとちょっと危惧も感じた次第でした。

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さて、Temple Grandin氏の方に話を戻して記事を終えたいと思います。

"Making Animals Happy"を読んで、私は Grandin氏自体にかなり惹かれるものを感じました。
影響されやすい私は、日本語版の"動物感覚"も手に入れて読もうとし始めています。それに留まらず、書籍中で何度も引用されている Patricia McConnell氏の "For the Love of a Dog"まで注文しちゃいました。# 本当に読めるんでしょうかねぇ...ふらふら

Grandin氏が(主に自閉症について)語っている映像で日本語字幕のついたものが ここにあります。興味のある方はぜひ一度ご覧ください。たった数分間ですが、氏の卓越した知性を感じることができるかと思いますよ。

このトークの中でも自身で紹介されていますが、Grandin氏の半生を描いた映画が今年公開されたようですね。既に一部のブログでもすばらしかったとの評価をされていますし、Trailerもイイ感じなので、つい DVDを注文してしまいました。リリースされる2ヶ月後を楽しみにしているところです。
英語をしっかり聞き取れる自信はこれっぽっちもないんですが、言語に頼らない"視覚思考者"である Grandin氏の話なので、なんとかなるんじゃないかなぁ...わーい(嬉しい顔)

2011/02/10 追記:
"動物感覚"の感想はこちら、映画"Temple Grandin"の感想はこちらです。

posted by Tosh at 13:44| Comment(2) | 雑記帳
この記事へのコメント
お久しぶりです。日中はだいぶ暑くなってきましたがファルくんはお元気ですか?
ファルコ地方は高原気候だからさわやかなんでしょうか?こちらは散歩は朝は6時台をすぎると・・・って感じになってきました。
テンプルさんのビデオ見ましたよ。最初ファルとーちゃんさんからテンプルさんの書籍の紹介を見た時、テンプルさんと動物がどうつながるのかと不思議な感覚でした。
自閉症の人は動物が苦手な人も多いし、もしくはおもちゃ的な感覚や感触を求める場合も多いので、もちろんテンプルさんが高機能で大学教授ということを知っていてもMaking Animals Happyという題名から内容が想像できなかったんです。
今もその本の内容についてはよくわかってはいないけど、わたしなりに、何故テンプルさんがMaking Animals Happyなのかちょっぴりわかった気がしました。まちがってるかもしれないけど・・・
自閉症の人達の特有の感覚や神経伝達回路、感覚処理、又思考方法は通常とされている人とは異なっている場合が多いけれど、動物においてもそれぞれの種により、情報の取り入れ又処理の仕方はそれぞれに違う。聞こえる周波数もちがえば臭覚の細胞数も違う、視覚をはじめそれら諸感覚の統合も。
テンプルさんは自閉症の自身の世界を著作としてこの世に出し、自閉症の多くを代弁してくれた最初の人であり、それによって今まではわからなかった、(当時者は理解してもらえずに、また回りの人は理解できずに苦しんでいた)自閉症の人の感じ方や世界がずいぶんわかり理解されるようになった。そのことでその人の得意なこと、苦手なことに応じた対応の仕方も考えられるようになり、その功績は本当に多くの自閉症の人達や回りの人達をHappyにしたと思う。
動物においてもその独自の感覚処理能力やその動物の世界を理解して接することが大切でその動物をHappyにできるという意味でつながるのかなと。
勝手な解釈失礼しました^^;
Posted by リリィのかーちゃん at 2010年06月13日 00:03
リリィのかーちゃんさん、
返事が遅くなってすみません。
ファルは元気ですが、暑い日が増えてきたので、リリィの体調はどうかなと気にしていたところです。

さて、グランディン氏と動物の関係ですが、ちょうど今日から読み始めた"動物感覚"の中でも説明されていました。
言語に頼らない思考方法を持つ氏は、自身が動物と同じように考えることができるとのこと(動物はサヴァンタイプだとも書かれています)。このため、氏は動物の考えていることを通訳することで成功されたと認識しておられるようです。"動物感覚"の原題は "Animals in Translation"なんですよ。

過去の記事で何度か紹介したように、(グランディン氏や"ナウシカ"のような能力を持たない)私は、ファルコとコミュニケーションを向上させる方法として、行動分析学の手法を用いたトレーニングを(チマチマとですが)続けています。
スキナー氏の直系?であるカレン・プライア氏や、その流れを汲むのであろうジーン・ドナルドソン氏の書籍も紹介しましたが、同時に"それでも犬が好き"で触れたように、犬の"心"の中にまで踏み込むことのない手法に対する漠然とした不満があるのも事実です。

テンプル・グランディン氏は動物行動学者ですが、神経科学分野も研究されてきたようで、(人を含めた)動物が共通に持つ感情(or情動:emotion)のコアシステムに注目し、犬の"心"に踏み込んでおられることが嬉しくて、ついつい雄弁になってしまっています。

"動物感覚"は簡単に手に入ると思いますので、一度読まれてみると面白いかもしれませんよ。
Posted by ファルコのとーちゃん at 2010年06月13日 22:27
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