ムツゴロウさんの動物王国に押しかけて行こうかと本気で考えていた時期もあるんです。
いろんな動物と付き合ってはきましたが、やはり私にとって犬は特別な存在です。なぜそんなに犬のことが好きなのか、理由があるなら知りたいと思ってきました。そして、その思いに一条の光を投げかけてくれたのが Temple Grandin氏の著作でした。
"動物感覚"の福音で少し触れ、いつか纏めたいと思いながらも、なかなか手を付けられなかった話題に関して書き始めてみようと思います。
犬と人間の共進化のこと。
人間が動物を飼いならした話や、オオカミを犬に変えたという話はつねに耳にする。ところが新しい研究では、オオカミのほうが人間を飼いならしたかもしれないということもあきらかになっている。人間はオオカミとともに進化したのだ。
(テンプル・グランディンら著「動物感覚 −アニマル・マインドを読み解く」p.398より引用)
"動物感覚"の中では、この話題に関してはわずか3ページ余りしか割かれていません。さまざまな分野で発見されたことが"犬と人間との共進化"の説に収斂すると書かれてはいるのですが、リファーされている文献も少なく(きっちりした論文は一つだけ)、私自身が納得するためには、自分でもう少し調べてみる必要を感じました。
また、この書籍(原書)が出版されたのは 2005年ですから、それ以降の科学的発見等を検証すべきだろうとも考えたのです。
< POOHちゃんと あいちゃんのお母さん達からの誕生日プレゼント >
グランディン氏が最初に挙げている拠り所は Charles Vilà氏ら(Robert Wayne氏を含む)の1997年の論文。mtDNAの分析から、分子時計(塩基置換速度)によって 13万5千年前には犬はオオカミから分岐していたと考察するものです。
"家畜化"されていたと考えられる考古学的証拠(同書では1万4千年前)に比べ、この分岐時期が非常に古いことから、その頃に犬と人間が"仲間"であったとしたら、その関係は現在よりももっと対等で、お互いに補い合う存在だったはずだというのがグランディン氏の考えのようです。
犬をオオカミ(Canis lupus)からの分岐した亜種(Canis lupus familiaris)とする考え方はほぼ定説となっていますが、分岐時期については、実は現時点でもさまざまな説があって 13万5千年という数字は確定的なものではありません。
この辺りのことについては、次の記事でもう少し書いてみるつもりです。
< リリィのかーちゃんさんからの誕生日プレゼント >
次に挙げられている説は、オーストラリアの考古学者達のもの。リファレンスに掲載されているのは2つのレポート(これと、おそらくこのPDFの中の"Man and canine a top team"の内容)です。Colin Groves氏の見解と Paul Taçon氏の考えを紹介しているものだと思われますが、リファーの仕方自体はあまり親切(適切)とは言えないかもしれません。
ここでのポイントは、他の霊長類に比べて人は高度な社会性を持っている(犬に似ている)が、それはオオカミと行動を共にする中で彼らから学んだものだという捉え方です。そして、オオカミとの共同作業や分業によって生存能力を高めると同時に、脳の縮小という家畜化に特徴的な現象(一部の仕事を犬に託す)を起こしていることにも触れられています。
正直に言って、この部分は"動物感覚"を読んだだけじゃ、"ふーん、そういう考えの人も居るのか"という感想を持つくらいで説得力はありません。非常にセンセーショナルな考え方であるからこそ、もう少し深堀をしてみる必要を感じました。
犬と人間はともに進化して、よき伴侶、よき仲間、よき友達になったのだ。
(テンプル・グランディンら著「動物感覚 −アニマル・マインドを読み解く」p.401より引用)
犬と人間の共進化の話題を始めるに当たって、まず今回はそのきっかけを与えてくれた"動物感覚"の記述について書き留めてみました。
なぜ犬が"最良の友"と呼ばれるのか、少しでも私の考えをまとめていけたらと思っています。